医薬品添加物、BHAとBHT
1 BHA、BHTとは
略名(化学名) BHA(ブチルヒドロキシアニソール)とBHT(ジブチルヒドロキシトルエン) 。BHAとBHTは医薬品添加剤として、脂質を含む多くの医薬品に添加され、多数の製薬企業が使用している。添加剤としての目的は、BHAあるいはBHTは自らが酸化されることによって脂質の酸化による変性を防止する目的で添加される、いわゆる酸化防止剤である。
食品添加物として、BHAが1954年、BHTが1956年に承認を受けた。医薬品にも食品に準じて添加されていたと考えられるが、その表示義務は、医療用医薬品で1988年(経過措置期間3年)、一般用医薬品で1991年(経過措置2年)から始まった。食品添加物と同じく、その製造過程で原材料にすでに添加されていた場合には、表示義務がない(キャリー・オーバー)。そのため添加剤として医薬品中に存在しても添加剤名が表示されていない場合がある。
問題にしたのは脂溶性ビタミンを含む医療用、及び一般用医薬品への添加である。医療用ビタミン剤の適応はビタミン欠乏症。一般用ビタミン剤は滋養強壮、肉体疲労、病後の栄養障害などである。他に両者とも、ビタミンの需要が増大し、食事からの摂取が不十分な際の補給として、「妊産婦、授乳婦、乳幼児」をあげていることを問題にした。
2 取り上げた経緯とその後の経過
BHAにはいわゆる環境ホルモン作用があり、BHTはBHAと化学構造が似ている。2001年1月に、当会議メンバーの加藤純二症例報告「男児の停留精巣と注意欠陥多動性障害の原因として疑われた、妊婦が服用したビタミン剤に添加されていたButylated Hydroxyanisole」を行ったことをきっかけに、タイアップ仙台を中心に医薬品添加物についての調査を開始した。
製薬企業12社へ手紙による調査(2001年1月〜6月)を行ったところ、11社に添加実績があった。その結果を2002年6月に「社会薬学」に論文として報告した。「一部のビタミン含有医薬品に添加されているbutylated hydroxyanisole(BHA)、butylated hydroxytoluene(BHT)及びsodium dehidroacetate(DHA-Na)の量とビタミンAの含有量とそれらの安全性について」(菅野友子他)。
3 何が問題か
- (1) 有効性(添加目的)
医薬品への添加目的は、脂質、特に総合ビタミン剤ではビタミンAの酸化防止による医薬品の商品としての有効期間を延長することにあると考えられる。 - (2) 安全性
- BHAは1982年、伊藤らにより、ラットの前胃に発ガン性があることが報告され、食品への使用が禁止される予定となった。しかし英米カナダからの要請で、その実施が延期となり、FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会で再検討され、発ガン性はラットの前胃に限定的現象でヒトには安全とされ、日本における使用禁止の延期はそのままとなった。
- 1995年、英国のジョブリングらはプラスチック添加剤など20種類の化学物質の環境ホルモン作用を検討した結果を発表したが、BHAに作用は弱いものの女性ホルモン作用があることを報告した。これは日本の学会でも再確認されている。
- いわゆる環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)は胎児に作用すると、生殖器の奇形、行動異常、学習障害などを引き起こす危険性が指摘されている。
- BHTは化学構造上、BHAに類似した化合物で、同じく酸化防止剤であり、BHAと混合して使用されることもある。1959年、妊娠ラットに投与して子供ラットに単眼症が発生することが報告されているが、その発生が少数であったため、問題とはされなかった。高橋晄正氏は、著書『薬品食品公害の20年』(1993年)の中で、日本における無脳症児の発生原因物質の一つである可能性を指摘している。
4 基本的行動方針
- (1) 医薬品製造におけるBHA、BHTの使用について
科学的根拠に基づく、できるだけ低い添加量での添加基準を厚生労働省、製薬企業などに求める。 - (2) 妊婦が服用する可能性がある医薬品にはBHA、BHTを含め、胎児に影響する可能性のある添加剤は使用しないこと。代替性がなく、それらの使用が止むを得ない場合は、妊婦の使用を禁忌とすることを求める。
- (3) 添付文書には添加剤の名称だけでなく、キャリーオーバーも含めて添加量も記載することを求める。
5 具体的行動と結果
2002年9月13日に、厚生省、医薬品添加剤協会、製薬企業などに「要望書」を提出。
同時に、薬害オンブズパースン会議ホームページに「脂溶性ビタミン剤一覧」を掲載。
6 今後の課題と最近の状況
2006年末まで、総合ビタミン剤以外の医薬品へのBHA、BHT、その他の医薬品添加物の添加実態について、手紙による調査を製薬企業100社以上について行った。しかし殆どすべての企業は「企業秘密であるので、回答できない」との回答であった。その後、2007年春以降、一般用医薬品のリニューアル商品について添付文書を調べたところ、BHA、BHTの添加を自粛している製薬企業が多くなっている。現在、妊婦が食べることが薦められる煮干しへのBHAの添加実態について、直接的な濃度測定をタイアップ仙台で行っている。
脂溶性ビタミン剤一覧
内服 | NO1 | アスラビタールカプセル | 藤本 |
---|---|---|---|
NO2 | アルファロール散・カプセル・液 | 中外 | |
NO3 | アルファスリーカプセル | 大正薬品 | |
NO4 | アルカドールカプセル | 日清ファルマー日清キョーリン=ケミファ | |
NO5 | アルシオド−ルカプセル | シオノ=科薬=メルクホエイ | |
NO6 | アルファガードカプセル | 東亜薬品ー山之内 | |
NO7 | アルファカルシドールソフト | 東洋カプセル | |
NO8 | アルカルロールカプセル | 東海カプセル | |
NO9 | アロートールカプセル | ナガセー科研=メルクホエイ | |
NO10 | アンツールカプセル | 東菱 | |
NO11 | エルシボンカプセル | 扶桑 | |
NO12 | オタノールカプセル | 日清ファルマー旭化成 | |
NO13 | カルサップカプセル | 清水ー武田 | |
NO14 | カルシオロールカプセル | 大正薬品 | |
NO15 | カルシタミン | 富士カプセル=高田 | |
NO16 | カルシタロールカプセル | 富士カプセル | |
NO17 | カルトールカプセル | メディサー沢井 | |
NO18 | カルデミン錠 | 龍角散ー久光 | |
NO19 | カルファリードカプセル | 大洋 | |
NO20 | カルフィーナ錠 | 共和薬品=マルホ | |
NO21 | カルミサールカプセル | 鶴原 | |
NO22 | 肝油 | 東豊=吉田製薬、山田 | |
NO23 | コバルファカプセル | 小林薬学 | |
NO24 | シオプリカートカプセル | シオノ | |
NO25 | チガソンカプセル | ロシュ | |
NO26 | チコカロールカプセル | 原沢ーファルマシア | |
NO27 | 調剤用パンビタン末 | 武田 | |
NO28 | チョコラA滴・末・錠 | サンノーバーエーザイ | |
NO29 | ディーアルファカプセル | 沢井=三菱ウェルファーマ | |
NO30 | ディースリーカプセル | 三菱ウェルファーマ | |
NO31 | トヨファロールカプセル | 旭化成 | |
NO32 | トルシトリンカプセル | 東和薬品 | |
NO33 | ハチビタン | 小野薬品 | |
NO34 | ビタプレックス | 三菱ウェルファーマ | |
NO35 | ビタミロアルファ | 太田ーテイコク | |
NO36 | ビタミロCT錠 | 同仁ーメルクホエイ | |
NO37 | ヒポテリオールカプセル | ナガセーガレン=メルクホエイ | |
NO38 | フルスタン錠 | 住友製薬ーキッセイ | |
NO39 | プラチビットカプセル | 東和薬品 | |
NO40 | ホーネル錠 | 大正製薬 | |
NO41 | ポスロットルSカプセル | 竹島 | |
NO42 | リストールカプセル | 大洋 | |
NO43 | リモデリンカプセル | 日医工 | |
NO44 | レオビノールカプセル | 東菱ー扶桑 | |
NO45 | ロカルトロールカプセル | ロシュ=杏林 | |
NO46 | ロンプリールカプセル | マルコ=三笠 | |
NO47 | ワークミンカプセル | グレランー武田 | |
NO48 | ワンアルファ錠・液 | 帝人 | |
注射 | NO49 | M.V.I.キット | エスエス |
NO50 | M.V.I.注 | エスエス | |
NO51 | M.V.I.−12キット | エスエス | |
NO52 | オーツカMV注 | 大塚製薬 | |
NO53 | オキサロール注 | 中外 | |
NO54 | ソービタ | 扶桑 | |
NO55 | チョコラA注 | エーザイ | |
NO56 | ネオM.V.I.−9注 | エスエス | |
NO57 | ネオラミン・マルチV | 日本化薬=科研 | |
NO58 | ビタジェクト | テルモ=日本化薬 | |
NO59 | ビタミロ12注 | 沢井ー大塚工場 | |
NO60 | マルタミン注射用 | 三共 | |
NO61 | ロカルトロールカプセル | ロシューキリン |
NO1 | アリナファイトハイ | 廣貫堂 |
---|---|---|
NO2 | ADカルシウI | 井藤 |
NO3 | エストロング | エスエス |
NO4 | オールタフカルシウム | 三和化学研究所 |
NO5 | オールタフカルシウムα | 三和化学研究所 |
NO6 | オールタフカルシウムプラス | 三和化学研究所 |
NO7 | カタセ錠D3 | 全薬 |
NO8 | カルカルシン | サトウ |
NO9 | カルカルシンソフト | サトウ |
NO10 | カルシー | エスエス |
NO11 | カルシチュウD3 | 藤沢 |
NO12 | カルシン小粒錠 | エスエス |
NO13 | カルフレッシュ | 資生堂 |
NO14 | カワイ肝油ドロップC20 | 河合 |
NO15 | カワイ肝油ドロップM400 | 河合 |
NO16 | カワイ肝油ドロップS | 河合 |
NO17 | キューピーコーワゴールドA | 興和 |
NO18 | 強力八ッ目鰻キモの油 | 八ッ目 |
NO19 | グロンサンゴールド錠 | 中外 |
NO20 | ケシミン | 小林 |
NO21 | ゴールドリバー | 日邦 |
NO22 | 小粒タウロミン | 大日本製薬 |
NO23 | サニビタAD | 東京田辺 |
NO24 | サモンG | 大正製薬 |
NO25 | 新オールタフカルシウム | 三和化学研究所 |
NO26 | 新カンリゲンボン | 三和化学研究所 |
NO27 | 新キューピーコーワゴールド | 興和 |
NO28 | ステイタスA | 全薬 |
NO29 | ステイタスD3 | 全薬 |
NO30 | 総合ビタミン住友ゴールド | 住友 |
NO31 | チオルシン | エスエス |
NO32 | チョコラAD | エーザイ |
NO33 | ドックマン | 全薬 |
NO34 | ナチュレアCa | 杏林製薬 |
NO35 | ネオ肝油キング | 三正 |
NO36 | ノアールADチュアブル | サトウ |
NO37 | バイランCa錠 | 日水製薬 |
NO38 | パパゼリーC | 大木 |
NO39 | パパゼリー5 | 大木 |
NO40 | ハブコールE | ジェーピーエス製薬 |
NO41 | ハリバエース錠 | 第一薬品 |
NO42 | パールカルクD3錠 | 御木本 |
NO43 | パンビタンハイ | 武田 |
NO44 | ビタホルテソフト | サトウ |
NO45 | ビタミネンAD | サトウ |
NO46 | ビタミネンゴールド | サトウ |
NO47 | フローミンエース | 武田 |
NO48 | ポポンS錠 | 塩野義 |
NO49 | ホリグロン | 日邦 |
NO50 | マイヴィーナスACED | 三和化学研究所 |
NO51 | マルチビタミンゴールドA | エスエス |
NO52 | ミネビタールA | 三共 |
NO53 | メガネ肝油球S | ワカサ |
NO54 | やつめホルゲン | 大木 |
NO55 | 「八ッ目」のせい | 八ッ目 |
NO56 | 「八ッ目」ビタミンA油カプセル | 八ッ目 |
NO57 | ユンケルソフトカプセル | サトウ |
NO58 | リボファイトハイ | 廣貫堂 |
NO59 | レオポンADカプセル | 明治製薬 |
NO60 | ワダカルシュームCD3錠 | ワダ |
トピックス
- 薬害オンブズパースン会議
- タイアップグループ
- 2004-09-13
- タイアップ仙台講演会
- 2002-09-13
- 「総合ビタミン剤などに含まれる医薬品添加物のBHA、BHTに関する要望書」提出
機関紙
- 2002-10-01
- ビタミン剤の添加物(BHA、BHT)