COVID-19のデータの透明性はタミフルから進歩していない。論文の洪水は有毒だ
2020-11-30
キーワード 新型コロナウイルス、COVID-19、パンデミック、論文撤回、タミフル、透明性
有力医学雑誌NEJMとLANCETで、COVID-19に関する2つの論文が相次いで撤回された。世界中でCOVID-19治療剤・ワクチン開発のための科学的根拠を緊急に必要としている最中、この一連の出来事を研究者たちは衝撃的で深刻な問題と捉えている。
今回、BMJのNEWS ANALYSISがこの件を扱っている(※1)ので要旨を紹介する。
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2020年5月22日、ヒドロキシクロロキンとクロロキンで治療されたCOVID-19の入院患者はその薬を服用していない患者より死亡および心室性不整脈のリスクが高いことを示した、という観察研究の論文がLANCETに発表された。また、その論文と同じ著者は、2020年5月1日にも、アンジオテンシン変換酵素阻害剤とアンジオテンシン受容体拮抗薬のCOVID-19患者への害は高くない、という内容の論文をNEJMに発表していた。
だが、この2つの論文は、出版後に相次いで撤回された。
COVID-19の猛烈な論文ラッシュのなかで有力医学雑誌が掲載したこれら2つ論文は、いずれもSugishereという社員10名程度の小さなヘルスケア情報分析企業が提供したデータを用いた研究に基づくものである。Sugishere社はオリジナルデータの開示を求められたにもかかわらず、機密契約であることを理由にそれを拒んだ。小さな会社が短期間にこれだけのデータを得ることができるのか疑義があった上に、Sugishere社へデータを提供したという医療機関が現れなかったことから、上記2つの論文は撤回されることになった。
COVID-19パンデミックは、新たな研究の洪水をもたらした。BMJの調査責任者のElizabeth Loder氏は、査読者やジャーナル編集者が慎重にみたとしても意図的にデータを操作されているかどうかを見極めることは困難だと認めた。
ノルディック・コクランセンターの疫学者Tom Jefferson氏は、世界的に備蓄が進んでいるオセルタミビル(タミフル)の臨床試験データの情報公開を製薬企業に求め続けるキャンペーンを長年行ってきた人物である。同氏は、「緊急事態の下で軽率な出版ラッシュが起こっており、それ自体が有毒だ」「今回の有力医学誌の論文が撤回されたエピソードはタミフル事件から何も教訓を得ていないことを示している」と語った。
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コクラン共同計画(以下「コクラングループ」という)がロッシュ社のタミフルに関する情報操作を明らかにしたのは2009年だった。日本の小児科医がレビューについて大部分が未公表データに基づいていることを指摘したことをきっかけに、コクラングループがロッシュ社へデータ開示の要求をしたが、ロッシュ社はこれに応じなかった。
その結果、コクラングループは、タミフルの評価を「タミフルの合併症予防の有効性は示されていない」に変更した(詳細は※3〜※8の当会議注目情報参照)。「タミフル事件から何も教訓を得ていない」とのTom Jefferson氏によるコメントは切実ともいえる危機感ととらえるべきだ。
日本生まれの「イベルメクチン」についてのCOVID-19研究論文も、本記事に登場するSugishere社のデータによるものであり、同様の疑いが持たれている (※2)。BMJの調査責任者のElizabeth Loder氏の悲鳴から想像するに、今回のような捏造ともとれる理由で撤回された論文は氷山の一角なのだろう。
今、雑駁とした環境でEBM(医療の科学的根拠)の根底に赤信号が出ている。とはいえ、現場は止まることができない。医療関係者はこの事実を受け止め医薬品、ワクチンへ批判的吟味を行うことが必要である。(C.T.)
- 関連資料・リンク等
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- ※1 Data transparency: “Nothing has changed since Tamiflu”
- ※2 イベルメクチンのコロナ論文取り下げ 米大学など 北里大は国内治験継続
- ※3 タミフルのインフルエンザ合併症予防効果は証明されていない−コクランレビューとその背景
- ※4 改訂されたコクランレビューが示すタミフルの全体像― 効果的な薬剤でなく安全性に懸念
- ※5 タミフルのコクランレビューが明らかにしたロシュの情報操作
- ※6 コクラングループが、タミフルによる入院率減少効果は認めず、合併症減少効果の情報も得られずと指摘
- ※7 コクラングループはあくまでタミフルに関する全臨床試験データの公表を求める −ロシュの「諮問委員会」設置の申し入れを拒否
- ※8 タミフルデータの公表に関するNICEの対応をBMJが厳しく批判