DOACsの出血リスクと中和剤の使用について〜MHRA(英国医薬品庁)がDSUで注意喚起
2020-10-26
(キーワード)DOAC、出血リスク、腎障害、中和剤の効果、モニタリング
MHRA(英国医薬品庁)がDSU(薬剤安全最新情報)でDOACs(直接経口抗凝固剤)の出血リスクについて注意喚起した(※1)。DOACsはダビガトラン、アピキサバン、エドキサバン、リバロキサバンの4種類が市販されている。血液凝固システムにおいて、ダビガトランは直接トロンビンを阻害し、他の3剤は第Xa因子を阻害するとされている。
DOACsによる治療中、とりわけ出血リスクが増している患者においては、出血合併症の兆候に注意する必要がある。腎機能障害の患者では用量が適切であることの確認と、使用中も腎機能をモニタリングする必要がある。特異的な拮抗剤としてダビガトランにはイダルマズシブが、アピキサバン、リバリキサバンにはアンデキサネットアルファが利用可能であるが、アンデキサネットアルファの使用管理には注意が必要であると、医療専門家に向けてのアドバイスを掲載している。以下に要約を紹介する。
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■DOACによる出血リスク■
英国では今もDOACと関連した、生命に関わる致死的な出血の報告が続いている。それらの多くは、出血イベントの発生リスクの高い患者で起きている。高齢者、低体重、腎障害のある者では慎重に使用し、貧血や出血の兆候がないか定期的に臨床検査を行う必要がある。どの部位にも出血は起こりうる。重度の出血ではDOACを中止する。他の抗凝固剤との併用を避け、P糖タンパク、CYP3A4の強力な阻害剤は血中濃度を高めるため併用を避けるか減量する。
■用量は腎機能に依存■
腎機能に応じて用量を調節する。推定糸球体濾過率(eGFR)は腎機能を過大評価し出血リスクを増加させる可能性があるため、用量設定にはクレアチニンクリアランス(CrCl)を用いる。治療中、血液量減少、脱水、腎機能に影響を及ぼす薬剤使用など、腎機能低下が疑われる場合には、腎機能を評価すべきである。ダビガトランは重度の腎障害(CrCl30mL/min未満)には禁忌、他のDOACも減量し慎重に使用する。
■出血と中和剤の管理■
DOACの製品添付文書には出血合併症の管理に関するガイダンスが含まれている。第Xa因子(FXa)阻害剤のアピキサバン、リバリキサバンにはアンデキサネットアルファが利用可能であるがエドキサバンで使用できる中和剤は認可されていない。抗FXaの定量試験は、過剰服用や緊急手術といった例外的な状況では役に立つかもしれないが、中和剤の有効性を測定することはできない。モニタリングは主に止血できているか、再出血がないか、血栓塞栓の発生状況などを示す臨床データ等に基づくべきである。
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DOACの出血リスクについては、当会議でも取り上げてきた。「ダビガトラン(プラザキサ®)に関する要望書」(※2)では、ワルファリンからの切り替え時の用量、aPTTによるモニタリングの可能性の明記、中和剤の開発までは一時販売を中止することなどを要望した。これらの情報や、今回のMHRAの注意喚起の内容は、既に添付文書にも記載され、不整脈薬物治療ガイドライン2020年版ガイドライン(日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン、3月発表)おいても反映されている。
しかし日本国内においても重大な出血イベントの報告は依然と多い。PMDAの運営する医薬品副作用データベース(※3)でDOAC4剤の副作用の疑いのある症例を検索したところ、2019年〜2020第一四半期のものとして報告された出血関連の死亡は150例に上り、過半数が脳出血である。転倒等に起因する外傷性の硬膜外出血、硬膜下出血・血腫も目立つ。塞栓性脳梗塞や心筋梗塞など血栓イベントも報告されており注意を払う必要がある(※4)。間質性肺炎その他全ての死亡例を入れると200例を超え、9割が70代以上の高齢者である。
我が国において中和剤が利用可能なのはダビガトラン(プラザキサ®)のイダルマズシブ(商品名プリズバインド®)のみである。FXaの阻害薬であるエドキサバン、リバロキサバン、アピキサバンの特異的中和剤は未承認であり、抗凝固効果のモニタリング指標も未確立のままである。前述のガイドラインで非弁膜症性心房細動のCHADS2スコア(心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳卒中の既往)のうち1つでも該当項目があればDOACが推奨されている。必然的に高齢者はそれだけで投与対象なのである。モニタリングが不要であるという使いやすさから、必要以上に使用されているというべきである。リスクの大きさと治療の必要性を慎重に検討し、適用を厳密に限るべきだろう。(N)