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安全性データ収集簡略化についてのICHガイドライン案にEU関係者の意見が分かれた

2020-05-26

(キーワード)ICHガイドライン,安全性データ収集,市販前後期臨床試験,市販後臨床試験

 医薬品規制調和のための国際会議(ICH)は、承認前と市販後の臨床試験における「安全性データ収集の最適化」をめざしたガイドライン“Optimisation of Safety Data Collection E19 ”の案(以下「E19ガイドライン案」という)を2019年に公表した(*1)。

 E19ガイドライン案では,承認前の後期臨床試験や市販後の早期臨床試験で薬剤の一般的な副作用が十分にわかっている場合には、非重篤な有害事象や、バイタルサイン、併用薬などのデータ収集をしない「選択的安全性データ収集」を認め、これにより被験者の負担が軽減され、臨床試験の効率が向上するとしている。

 2019年11月、欧州医薬品庁(EMA)はE19ガイドライン案に対するパブリックコメントを集約した結果を公表した(*2)。ピンクシート誌でコメントの特徴が論説されているので紹介する(Pink Sheet online News 2019年11月1日*3)。

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 E19ガイドライン案に対して、特に承認前臨床試験に関して批判がある。

 ドイツ倫理委員会は「臨床研究において安全性データの収集にいかなる制限を設けることもあってはならない」と厳しく批判している。

 またスペイン医薬品庁は、同ガイドラインが適用される前提として「医薬品の安全性プロファイルが十分に特徴付けられた場合」としていることに対し「承認前や市販後早期の臨床試験の段階で安全性が明らかになるようなことはあり得ない。市販後に見つかる新たな安全上の問題の検出を妨げることにつながる」と強く批判している。

 生物薬剤学的サービス企業IQVIAは、同ガイドライン案が「承認後は因果関係ありとする有害事象に限定して収集する」とされていることに対し「有害事象と薬の因果関係の評価が常に示されるとは限らない」と指摘し、欧州臨床試験推進グループも「ガイドラインは利用可能な安全性データのさらなる削減となり、薬物の利益リスク評価をゆがめることにつながる」という懸念を表明している。

 欧州製薬団体連合会(EFPIA)は同ガイドラインの修正が必要という意見を寄せ、その理由として、製薬企業がデータ収集から特定の安全性情報を除外する可能性があり、「選択的安全性データ収集」をどの時点で検討すべきか、データの量と範囲などをより明確化する必要があるとしている。またドイツ製薬工業協会(BPI)も、規制当局が「選択的安全性データ収集」のための科学的前提条件をもっと正確に定義する必要があるとした。

 一方で、現実には、すでに臨床試験における安全性データ収集は徐々に簡略化されているとして、同ガイドライン案は「現実とのギャップを埋めるもの」であり、米国のFDAの2016年のガイダンスとほぼ同じものであるという賛成意見もあったほか、国際受託臨床研究機関協会や一部の製薬企業からは、市販後臨床研究の負担を大幅に軽減する可能性があるという賛成意見もあった。

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 「選択的安全データ収集」に関するガイドラインに関しては、ピンクシート誌の記事中にもあるように米国のFDAによるガイドラインが存在する(*4)。

 ICHはこのような「選択的安全性データ収集」を国際基準にすることで、被験者の負担が軽減され、臨床試験が活性化されることで、公衆衛生に貢献し得るとしている。

 しかしソリブジン事件のように、市販後早期に重大な副作用が問題となり販売停止に追いこまれた事例は数多くある。そしてその原因の一つに、開発段階の安全性データの軽視、隠蔽、市販直後の安全性データ収集の不十分さがあった。

 公衆衛生への貢献を語るのであれば「安全性データ収集」への努力をおろそかにすることは許されない。 (N.M)      



*3)Vibha Sharma:“Opinion Split Over ICH Proposal To Limit Safety Data Collection”Pink Sheet 01 Nov 2019 News