改訂されたコクランレビューが示すタミフルの全体像― 効果的な薬剤でなく安全性に懸念
2010-02-05
(キーワード: タミフル、コクランレビュー、2009年12月改訂)
2009年12月16日の注目情報(※1)で、英国NHS(国民保健サービス)の要請を受けて國際プロジェクト「コクラン共同計画」がタミフルのレビューを改訂し、前回のインフルエンザ合併症に有効という評価を「証明されていない」に変更したことを英国医学雑誌(BMJ)のレビュアーによる解説記事からお伝えした。肺炎など季節性インフルエンザの合併症に対する効果は、タミフルを新型インフルエンザに対する公衆衛生薬として備蓄する有力な根拠となっており、そこに焦点が当てられていたが、今回は改訂されたコクランレビューの全体像について、同じ2009年12月8日のBMJ誌電子版に掲載されたコクランレビュー論文(※2)の要旨を紹介する。
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タミフル(オセルタミビル)などノイラミニダーゼ阻害剤の効果(他の面では健康な成人におけるインフルエンザ症状・感染拡大・合併症の予防または改善)を評価した。また有害反応頻度の推定を行った。文献の選択基準は、季節性インフルエンザに罹患した他の面では健康な成人におけるノイラミニダーゼ阻害剤についての、プラセボを対照としたランダム化比較臨床試験論文である。主要評価項目は、下部呼吸器感染症またはその近縁疾患の罹患と症状の発現割合と継続期間、有害事象である。2人のレビュアーが受け入れ基準を適用して試験の質を評価し、データを抽出した。データは予防・治療・有害事象ごとに解析した。予防4試験、治療12試験、罹患後の合併症の予防4試験の計20試験が選択された。
1) 予防では、ノイラミニダーゼ阻害剤はインフルエンザ様疾患にも無症状性インフルエンザにも効果がなかった。
2) 治療効果では、タミフルはインフルエンザ症状があり臨床検査で確認診断されたインフルエンザに対して、1日75mgの用量では有効率61%(リスク比0.39、95%信頼区間0.18-0.85、註1)、1日150mgの用量では有効率73%(0.27、0.11-0.67)であった。吸入剤のリレンザ(ザナミビル)10mgは有効率62%(0.27、0.11-0.67)であった。
3) 罹患後の合併症の予防では、タミフルは家庭において行われた2試験において有効率はそれぞれ58%(95%信頼区間15%-79%)と84%(49%-95%)であった。インフルエンザ様症状が軽減するまでの時間はハザード比(註2)が1.20(95%信頼区間1.06-1.35)とタミフルに有利であった。合併症に関する10試験において8つの未発表試験は詳細なデ―タが得られず除外した。残った2試験のデータはタミフルがインフルエンザ関連の下部呼吸器合併症を減少させないことを示唆していた(リスク比0.55、95%信頼区間0.22-1.35、註3)。
4) 有害事象では、タミフルは吐き気をもたらした(オッズ比1.79、95%信頼区間1.10-2.93、註3)。タミフルの有害事象はまれとした市販後監視のデータは質が低く、過少報告されている可能性が存在する。タミフルの毒性の問題は関心を集めており、政府は安全性を監視する研究を設定すべきである。
結論: 他の面では健康な成人におけるインフルエンザ症状に対するタミフルなどのノイラミニダーゼ阻害剤の臨床効果は大きいものでなかった(modest)。臨床検査で診断が確定したインフルエンザに対しては有効であったが、これはインフルエンザ様疾患の小さな要素に過ぎず、これでもってノイラミニダーゼ阻害剤が効果的な治療剤であるとは言えない。ノイラミニダーゼ阻害剤は季節性インフルエンザの症状を減ずる選択肢の1つと位置づけられる。タミフルがインフルエンザの合併症を予防するとのこれまでの知見は良質のデータが欠けている。この不確かさを解決するには独立したランダム化臨床試験が必要である。
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タミフルの季節性インフルエンザに対する今回改訂のコクランレビューの結果をまとめれば、1)タミフルの臨床効果はささやかなものであり、効果的な治療剤とは言えない、2)合併症に対する効果は証明されていない。合併症に対する効果を証明するには独立したランダム化比較臨床試験が必要である、3)有害事象は吐き気が認められた。ただし、安全性報告の質には問題があり、政府は安全性を監視する研究を設定すべきである、となるであろう。最後の安全性の問題について、レビュアーたちはランセット誌2009年10月17日号に「オセタミビル(タミフル)の可能性のある有害作用―緊急アクションの要請」を寄稿し、汎用の薬剤でありケースコントロール研究ないしランダム化臨床試験の実施を急ぐよう要請している。 (T)
訳註1) 有効率61%(リスク比0.39、95%信頼区間0.18-0.85)
統計学的な説明は割愛し、参考に数字の読み方のみ記す。「比」は対照(ここではプラセボ)を1とした場合の薬剤(ここではタミフル)が及ぼす効果(影響)の比を示す。1.0であればプラセボと変わらない。1より小さければタミフルに有利。有効率が61%なのでリスク比は1-0.61=0.39となっている。「95%信頼区間」は0.39の前後にもとのデータがばらついているばらつきの度合いを示す指標である。今回の場合、有効率は61%となっているが、タミフルの効果を多めに見積もった場合は82%(1-0.18)、少なめに見積もった場合は15%(1-0.85)となることを示している。この95%信頼区間が1.0を含まなければ統計的に意味がある差(有意差)があることを示している(臨床的に意味があるかは別の事柄で、個々に検討される)。
訳註2) ハザード比1.20(95%信頼区間1.06-1.35)
ハザード比は時間(ここではインフルエンザ症状の軽減までの時間)の要素がはいってくる場合のリスク比を表わしている。この場合は「インフルエンザ様症状が軽減するというイベント(出来事)」の発生率をタミフルとプラセボとで比較しているので、1より大きければタミフルに有利。数字の見方は上記註1と同じ。
訳註3) リスク比0.55、95%信頼区間0.22-1.35)
リスク比が0.55と1より小さくタミフルに有利だが、95%信頼区間が0.22-1.35と1.0を含んでおり、有意差(統計的に意味のある差)ではない。それで「合併症に有効とは証明されていない。はっきりとしたことを言うには、独立したランダム化臨床試験を実施する必要がある」ということになる。