スイスで医師・薬剤師協同の「クォリティサークル」が患者の利益向上に貢献 公共の事業に発展
2009-05-14
(キーワード: 医師・薬剤師協同、医療の質向上、患者の利益、保険者、薬剤師会)
医療の質を高め患者本位の医療を推進する上で、医師と薬剤師の協同が大切だとは、建前としては言われていても、長期にわたる実践がなされ、その効果を検証した研究は少ない。フランスで発行されている「プレスクリール・インターナショナル」誌2009年2月号(隔月発行)が、スイスでのそうした研究を取り上げ、論評しているので要旨を紹介する。
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1997年にスイスのFribourgで、医師と薬剤師による複数の「クォリティサークル」(医療の質向上サークル)が 、薬剤師有志の呼びかけで設立された。その主目的は、地域の医師と薬剤師の関係を改善し、生涯教育の質を高め、患者ケアの質を落とすことなく健康保険のコストを減じるために、質の高い患者ケアを展開することであった。それぞれのサークルは、5人から8人の医師と1人または2人の薬剤師で構成され、薬物治療の国際的なエビデンスをものさしにして、地域での医薬品処方の問題点がディスカッションされた。
サークルは現在、サンテスイス(スイスの保険者の連合体)、スイス医師会、ファーマスイス(スイスの薬剤師会)のいずれからも、生涯教育を提供する組織体として公式に認められ、サンテスイスから財政援助されている。
「クォリティサークル」が設立されてから10年が経った。2004-2006年に行われた研究により、サークルが、医薬品が適切で安全に処方され、患者１人当たりの医薬品コストも減少させる成果を収めていることが分かった。研究ではサークルメンバーの医師と非メンバーの医師によって書かれた処方せんが比較された。主な指標は、「患者１人当たりの薬剤費総額」、「定められた治療クラスでの患者あたりの薬剤費用」、「処方せんの頻度と容量」、「ジェネリック医薬品の使用」である。調査の方法論はファーマスイスとサンテスイスが共同して立案し、ファーマスイスが研究の質について保証した。
調査の結果は、高血圧治療剤として安価なACE阻害剤のジェネリック品でなく高価なアンジオテンシン�禽氷該泙凌渓瑤鰺僂い申菠�は、サークルの医師が18-26%少なかった。また、糖尿病治療剤では、非サークルの医師においてもメトホルミンが最も多く処方されてはいるものの、高価で否定的な所見が報告されているグリタゾン剤の処方は、サークルの医師が21-53%少なかった。2006年の患者1人あたりの薬剤費は、サークルの医師が13-16%少なかった。
医師と薬剤師は「クォリティサークル」に所属することが、彼らの職能を豊かに発揮させることを見出した。サンテスイスは、医師・薬剤師のサークルのベネフィットと財政援助の必要性をはっきりと認識した。サークルが長期に継続して活動するには、財政的な基盤が必要であった。
医師と薬剤師が共同するこのような試みは、患者と社会の両方の利益となり、スイス以外のどこででも有用と考えられた。
この記事の別の視点からの注目点は、最初は薬剤師有志の呼びかけでボランティアのサークルとして出発したのが、薬剤師会・医師会の取組みとして広がり、スイスの保険者連合会との協同で、公共の事業として推進されていることである。この記事の筆者は、「医師と薬剤師が共同するこのような試みは、スイス以外のどこででも有用と考えられた」と結んでいる。日本の薬剤師にとっても目指すべき方向が示唆されているではないだろうか。
ちなみに、ブライアン・L・ストローム編の薬剤疫学の教科書(第2版邦訳「薬剤疫学」篠原出版新社)にも、オランダのLAREB(地域型の薬剤副作用報告機構)で、薬剤師とその薬剤師と関係のある主要な医師が定期的に会合し、薬物治療に関する討議を行っていること、その教材を提供する目的で国立の財団が設立されたこと、医師と薬剤師の協同関係が進展していることが書かれている。 (T)
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